生活保護を受けることになると、日常の生活で様々な制約を受けます。
まず、家賃の上限が決まっているので、住む場所が限定される、家電など、生活に必要と認められた物以外は所有できない、貯金はできないので将来必要になるお金を貯めることができない、母子家庭では子供が18歳になると支給額が減額されるので、生活扶助から教育費を捻出しなくてはいけない、車が所有できない、あるいは所有が認められても認められた用途以外での使用はできない、といったことです。
母子家庭では家計に占める子供の養育費は大きく、そして進学するにつれて増えていきます。そのため、毎月支給される教育費だけでは足らなくなり、多くは生活費から出すことになります。もしバイトやパートなどである程度の収入が得られたとしても、その分、生活保護の支給額を減らされてしまうので、状況は改善しません。
このような状況から抜け出すためには、仕事につき、安定した収入を得ることによって生活保護をやめるのが一番ですが、現実的には生活保護をやめられるほどの収入がある仕事に就くのは簡単なことではなく、それが生活保護から抜け出すことができない大きな原因となっています。
例として、東京都在住で母30歳子供が3歳と1歳の母子家庭の場合、生活保護の支給額は約22万円です。これに生活保護を受けることで免除されていた医療費、健康保険料、NHK受信料などが必要になり、これらの合計が生活保護から抜け出すのに必要な手取り収入になります。
これくらいの手取り収入となると一般事務といった仕事ではまず無理で、いくつも仕事を掛け持ちしなくてはなりませんが、子供のいる母子家庭では現実的ではありません。
そこで考えたいのが、資格の取得です。資格を持つことで就職に有利になり、かつ、高収入を目指すことができ、生活保護から早く抜け出す可能性が高まります。もちろん、資格であれば何でもいいという訳ではなく、ある程度の収入が望める資格でなくてはなりません。
資格の取得を目指したい理由はそれだけではありません。生活保護には生活保護受給者の自立を支援するための「技能習得費」の支給があるからで、資格は取りたいけどお金がない、といった心配がありません。
ここでは、母子家庭で生活保護を早く抜け出すための資格取得について、順を追ってみていきます。
生活保護の技能習得費とは?
技能習得費とは、仕事に就くために求められる、あるいは必須の資格や技能を取得するために支給される費用のことをいいます。
技能習得費が支給される資格、技能は決まっており、いずれもよい収入が期待できる分野となっています。また、支給額には上限があり、支給される期間も資格、技能ごとに定められているので、その範囲内で取得することが求められます。
生活保護の技能習得費の対象となる資格、技能
技能習得費の対象となるのは、次の5種類の資格、技能です。
・介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)
介護職員は今最も人材が不足している業種で、高齢化が進む日本では益々求人が増えることが予想されます。肉体労働が伴うことが多いですが、やりがいもあり、若い人の就職も増えてきています。低賃金で問題になったこともありましたが、改善されつつあります。
・美容師
美容師も求人が多い業種です。
新しく美容室で働くとなると、シャンプーから始めるなど下積み期間がありますが、母子家庭で将来的に独立して、という目標がもてるのが美容師です。
・医療関係
医療には様々な仕事がありますが、対象になるのは医療事務です。
具体的には、病院、クリニックの受付や会計、点数算定やレセプト点検のための専門知識の習得です。そのほかにも、患者応対、診療報酬請求、カルテ管理なども医療事務の仕事となります。
勤務時間が決まっていることが多いので予定がたてやすく、忙しい母子家庭の方でも取り組みやすい仕事です。
・電気建設関係
電気工事、建築に関する様々な資格で、現場での管理や、電気、建築の実務に関わる資格がほとんですが、建設業経理士のように、建設業の簿記や会計のための資格もあります。
・フォークリフト免許
その名の通り、フォークリフトを操作するために必要な免許です。
フォークリフトは様々な工場や配送倉庫で荷役に使われており、ニーズの高い仕事です。現場作業となりますが、女性の活躍が増えている職業です。
生活保護を抜け出すためには、できるだけ早く資格・技能を習得するのが望ましいですが、職場の場所や自分の適性、習得までにかかる期間などをよく考え、決める必要があります。
生活保護の技能習得費の支給額
技能習得費の支給額は1つの資格・技能に対し、年間の上限を80,000円とする実費となっています。1年では資格が取れないという場合は最大で2年まで同額の支給を受けることができます。
資格・技能の習得費が年間80,000円を超える場合は原則自己負担となりますが、やむを得ない事情があると認められた場合、特別に133,000円まで上限が引き上げられます。また、1年間に複数回の技能習得費が必要になるときは、上限が213,000円まで引き上げられます。
さらに、就労先の雇用条件に運転免許の所有があり、免許取得のための費用が必要といった場合には、380,000円まで習得費の支給を受けることができます。母子家庭になるまで専業主婦で運転免許も持っていなかったという場合でも、仕事に必要というのであれば、生活保護で免許を取ることができます。
技能習得費の支給には厳しいペナルティーがあります
技能習得費は生活保護を受けている人が自力で抜け出すのを支援する制度であることから、
支給に際しては厳しいペナルティーが設定されています。
それは、母子家庭で子供が急に病気になったなど、やむおえない理由もなく授業を欠席する、受けてもちゃんと勉強しないなど、必要な努力をしなかったために資格が取れなかった場合、支給額の全額を返還しなくてはいけない、というものです。
努力したけど取れなった場合は、通常は返還は求められませんが、事由によっては返還を請求されることもあり、各自治体の判断になってきます。
また、資格は無事取れたけど、なかなか就職しない、就職しても短期間でやめてしまう、といったケースも、全額返還の対象になります。
技能習得費の支給を受け、資格・技能が取れたらすぐに働きだせば、母子家庭でも生活保護から早く抜け出すことが可能になってきます。