生活保護を受ける母子家庭のための賃貸入居完全ガイド【監修付き・2025年版】

「生活保護を受けていても、子どもと安心して暮らせる賃貸住宅に住めるの？」──そんな疑問に、制度のしくみから実際の契約方法、支援制度まで、母子家庭のお母さん目線で丁寧にまとめました。この記事は、厚生労働省・自治体の公開資料をもとに、実際の現場で支援経験を持つ専門家が監修しています。

生活保護の中で「住まい」を支えるのが住宅扶助です。住宅扶助とは、家賃相当分を自治体が上限額の範囲内で支給してくれる制度です。母子家庭の場合、世帯人数に応じて金額が変わります。東京都23区では2人世帯で約69,800円、3人世帯では約74,000円が上限（2024年度時点）です。上限は自治体ごとに異なるため、必ず最新の情報を確認しましょう（出典：厚生労働省「生活保護制度の概要」）。

住宅扶助の仕組みを理解する：家賃上限・代理納付・申請の順序

住宅扶助の支給は、「上限内であること」「契約前に承認を受けること」「支払い方法を選ぶこと」の3つが基本です。上限を超える家賃は原則認められませんが、通学や医療など特別な事情がある場合は例外的に認められることもあります。また、支払いは「代理納付（自治体が直接家主へ振込）」を選ぶと、滞納リスクを防げます。申請の流れは以下の通りです。

• ① 不動産会社で物件を選び、見積書をもらう
• ② 福祉事務所に見積書を提出し、上限内か確認
• ③ 事前承認後に契約手続きを行う

この流れを守ることで、「契約後に住宅扶助が適用されなかった」というトラブルを防げます。特に母子家庭では転居に合わせて学校や保育園の調整が必要なため、余裕をもって相談を始めることが大切です。

家賃以外でかかる初期費用と助成の受け方

入居時にかかる費用には、家賃以外にも敷金・礼金・仲介手数料・火災保険料などがあります。これらは原則として住宅扶助の対象外ですが、地域によっては「一時扶助」や「母子父子寡婦福祉資金貸付制度」を使って補助を受けられます。たとえば社会福祉協議会の貸付制度では、敷金や引越費用を無利子で借りられる場合があります（出典：母子父子寡婦福祉資金貸付制度）。

• 敷金：住宅扶助で認められる場合がある
• 礼金・手数料：原則対象外、社協貸付を検討
• 火災保険料：一時扶助で申請できる自治体あり

申請の順序と失敗しないためのコツ

契約前に必ず見積書を福祉事務所に提出し、「対象範囲」を確認しましょう。契約後に申請すると認められないことがあります。職員に「初期費用の中で対象になるものを教えてください」と質問すれば、制度内で調整できる部分を教えてくれます。支援を受けることにためらいを感じる必要はありません。あなたとお子さんが安全に生活を始めるための制度なのです。

家賃上限と地域差の確認：一次情報を使う方法

住宅扶助の上限は都道府県ごとに異なり、同じ市内でも地域区分で金額が変わります。正確な上限を調べるには、自治体の福祉課または公式サイトに掲載されている「住宅扶助基準額表」を確認しましょう。たとえば東京都は以下のページで公開しています（出典：東京都福祉保健局「住宅扶助基準額」）。

世帯人数	東京23区	政令指定都市	地方都市
2人世帯	約69,800円	約60,000円	約45,000円
3人世帯	約74,000円	約65,000円	約50,000円

数字だけにとらわれず、「通学・通院・交通費」なども含めた生活全体のバランスで考えることが大切です。上限額内でも、通勤距離が増えると交通費がかさむため、結果的に支出が増えるケースもあります。

福祉事務所とのやりとりをスムーズにするコツ

福祉事務所では多くの案件を扱うため、早めの相談と書類整理が大切です。事前に次の3点を準備しておくと手続きがスムーズです。

• ① 見積書・間取り図など物件情報
• ② 現住所・世帯構成・子どもの通学情報
• ③ 入居希望日と契約予定日

「生活保護だから遠慮する」必要はありません。制度はあなたとお子さんの生活を守るための仕組みです。困ったときは「こういう場合はどうすればいいですか？」と一言添えるだけで、職員も丁寧に対応してくれます。

保証人・初期費用・審査の壁を乗り越える：母子家庭が安心して借りるための実践知識

実際に物件を借りようとすると、「保証人がいない」「初期費用が払えない」「審査に通らない」など、現実的な課題に直面することがあります。ですが、生活保護を受けていても、法的にも制度的にも賃貸契約は可能です。この章では、母子家庭の方が安心して契約を進められるように、保証会社・自治体支援・書類準備の具体的ポイントをまとめます。

保証人がいないときの3つの選択肢：保証会社・UR・自治体制度

保証人を頼める人がいない場合でも、賃貸契約を諦める必要はありません。現在は、保証会社や自治体による支援制度が整っています。特にUR賃貸住宅は保証人不要で、生活保護受給者や母子家庭も多く入居しています（出典：UR都市機構公式サイト）。

• 保証会社を利用（費用は住宅扶助の対象になることも）
• UR・公営住宅・セーフティネット住宅の活用
• 自治体や社協の保証支援制度を利用

保証会社を使うときの注意点：更新料・負担割合・自治体の確認

保証会社を使う場合、初回保証料（家賃の30〜50％程度）と年更新料（1万円前後）が必要です。自治体によっては、これらの費用が住宅扶助の対象となるケースもあります。契約前に必ず福祉事務所に「保証料の補助対象になるか」を確認しましょう。また、代理納付を選べば、家賃の支払い実績が信用情報としてプラスに働く場合もあります。

初期費用を抑える5つの具体策：補助制度・交渉・貸付の活用

引越し時に必要な初期費用をすべて自己負担するのは現実的ではありません。そこで、制度・交渉・貸付を組み合わせて負担を軽減します。代表的な方法を以下にまとめました。

方法	内容	補足
① 礼金なし物件を選ぶ	UR・自治体系住宅に多い	交渉で半額になる例も
② 社協の貸付制度	敷金・引越費用を無利子で借入	返済は月3,000円〜分割可
③ 仲介手数料の交渉	家賃1か月→0.5か月に交渉可能	事前見積提出が必須
④ 火災保険料補助	一時扶助で認められる自治体あり	要申請
⑤ 家賃前払い回避	代理納付で支払い保証	家主に説明で理解得やすい

「見積書を出してから相談」が鉄則：初期費用トラブルを防ぐ方法

多くの人が「契約後に補助が出ると思っていた」と勘違いします。住宅扶助や一時扶助は原則、契約前に福祉事務所の承認を得る必要があります。不動産会社に「見積書をPDFで出してもらい、これを役所に見せたい」と伝えましょう。正式な書式でなくても見積金額が分かれば十分です。書類を確認しながら「どの部分が対象になりますか？」と職員に質問するのが最も確実な方法です。

書類準備と審査をスムーズに進めるコツ

賃貸契約時の審査は、主に「家賃の支払い能力」と「書類の整合性」を見ます。生活保護の受給は「安定した収入」として判断されるため、マイナスにはなりません。ただし、書類の提出順や不備があると時間がかかるため、以下を揃えておきましょう。

• 賃貸借契約書案（家賃・共益費を明記）
• 生活保護受給証明書（福祉事務所発行）
• 見積書・物件概要書（不動産会社発行）
• 身分証明書（運転免許証または保険証）

書類提出のタイミングで審査スピードが変わる理由

福祉事務所・不動産会社・保証会社は同時並行で確認を進めます。そのため、ひとつの書類が欠けているだけで全体が止まってしまうことがあります。とくに「家賃内訳」と「入居希望日」は必ず書面に明記しましょう。福祉事務所の職員は日中外出することも多いので、電話よりメール・FAX・LINEの自治体窓口（導入自治体のみ）を活用すると効率的です。

断られたときの対応：諦めずに切り替える3ステップ

もし「生活保護の方はお断り」と言われた場合でも、落ち込む必要はありません。法的に差別は禁止されていますし、実際に入居できるルートは複数あります。以下のステップを試してください。

拒否されても「自分が悪い」と思う必要はありません。むしろ、仕組みを理解していない不動産会社が多いのが現実です。次の章では、支援制度を活用して安心して契約を進める方法を解説します。

支援制度と併用できる補助：母子家庭が知っておきたい実際に使える公的サポート一覧

生活保護を受けながらの賃貸入居では、家賃や初期費用以外にもさまざまな支援制度を活用できます。「もう制度は使っているから無理」と思う方も多いですが、実は住宅扶助と併用できる補助制度が複数あります。ここでは、母子家庭の方が特に利用しやすい支援制度を中心に、申請先・利用条件を具体的に紹介します。

住宅確保給付金・居住支援法人・社協支援の活用

生活保護に準ずる支援として、「住宅確保給付金（住居確保給付金）」や「居住支援法人」の制度があります。これらは、離職や収入減で家賃が払えなくなった場合にも利用できます。また、社会福祉協議会（社協）では、引越費用や敷金・礼金の貸付、就労相談まで一貫して支援しています。

制度名	内容	申請先	補足
住宅確保給付金	家賃相当額を上限付きで支給	自治体（自立相談支援機関）	生活保護受給前・終了後に利用可
居住支援法人	入居先紹介・相談支援	都道府県登録法人	保証人不要物件紹介あり
社協貸付制度	敷金・引越費用などを無利子貸付	市町村社会福祉協議会	母子世帯の利用例多数

これらの制度は「生活保護中でも相談可」と明記されている地域も多いです。迷ったらまず自分の住む市区町村の福祉課や自立相談支援機関に問い合わせてください。 出典：厚生労働省「住居確保給付金」制度概要

公営住宅・UR・セーフティネット住宅：生活保護でも入居できる住まい

母子家庭の方が生活保護を受けながら入居できる住宅には、公営住宅・UR賃貸住宅・セーフティネット住宅などがあります。これらの多くは保証人不要で、家賃も所得に応じて設定されています。

• 公営住宅（県営・市営）…収入基準内なら入居可能。生活保護受給者も申込可。
• UR賃貸住宅…保証人不要、礼金・仲介手数料なし。保証会社利用でスムーズ。
• セーフティネット住宅…高齢者・母子家庭・低所得者など入居支援対象。

UR・公営住宅の申し込み時に押さえるポイント

URは年4回（おおむね3月・6月・9月・12月）に募集があります。申込書に「生活保護受給中」と書くことは問題ありません。家賃は住宅扶助上限を基準に選びましょう。公営住宅の場合は自治体の募集時期が年1～2回程度です。福祉事務所の職員が推薦書を発行してくれる場合もあります（出典：UR賃貸「子育て世帯・母子家庭向け支援」）。

子育て・教育費と連動できる支援制度

賃貸契約と直接関係がなくても、家計を支える制度を活用すれば結果的に住居維持がしやすくなります。とくに母子家庭では、以下のような教育関連の支援を並行して申請すると生活が安定します。

教育関連の支援を組み合わせて家賃を守る考え方

家賃の直接補助が難しい地域でも、教育費の補助があれば生活全体の支出を下げられます。児童扶養手当や就学援助を申請すると、年間で数万円単位の負担軽減につながります。つまり、「家賃を減らす」より「他の出費を減らす」発想で家計全体を安定させるのがポイントです。 出典：厚生労働省「母子父子寡婦福祉制度」

無料・低額で相談できる公的窓口まとめ

困ったときにすぐ動けるよう、母子家庭・生活保護受給者が使える代表的な相談窓口をまとめました。制度の確認だけでなく、実際の物件紹介や同行支援を行う機関もあります。

窓口名	相談内容	費用	連絡先・備考
福祉事務所	住宅扶助・生活保護申請・変更届	無料	各市区町村
社会福祉協議会	貸付・就労支援・子育て相談	無料	市町村ごとに窓口あり
居住支援法人	入居先紹介・同行支援	無料	都道府県公式HPで検索
法テラス	家主とのトラブル・契約相談	初回無料	法テラス公式サイト

「制度を探す」より「人に聞く」ほうが早い：相談のすすめ

インターネットで調べても情報が古いことが多く、自治体によって制度の呼び方も違います。まずは「福祉課で住宅の相談をしたい」と伝えるだけで大丈夫です。担当部署が分からなくても、窓口で案内してもらえます。制度は一人ひとりの状況に合わせて組み合わせられるものなので、直接相談するほうが確実で早いのです。

手続きと将来設計：安心して暮らし続けるための実践アドバイス

入居が決まったあとも、生活保護の住宅扶助を安定して受けるためには、定期的な手続きと報告が欠かせません。また、母子家庭として子育てや就労を両立しながら「次のステップ」を考えることも大切です。ここでは、入居後の管理・転居・自立支援・将来設計までを体系的にまとめました。

入居後に必要な手続き：報告・更新・変更届の基本

入居後も、家賃や契約内容が変わるときは必ず福祉事務所へ報告が必要です。報告を怠ると「過払い」や「返還請求」が発生することがあるため注意しましょう。基本的な手続きは次の3つです。

• 家賃変更・契約更新時の報告
• 世帯人数の変化（進学・就職など）
• 就労・収入増加の申告

「定期報告」と「変更届」を分けて考える：トラブル防止の基本

福祉事務所では半年〜1年ごとに「定期報告（現況届）」の提出を求められます。これとは別に、生活状況が変わった際は「変更届」をその都度提出する必要があります。書類を溜めず、通帳コピー・給与明細・契約書などをクリアファイルでまとめておくと便利です。担当者もスムーズに確認でき、処理が早くなります。 出典：厚生労働省「生活保護制度について」

自立に向けた家計と就労のステップアップ

生活保護を受けながらでも、少しずつ経済的自立を目指すことは可能です。特に母子家庭の方は、資格取得支援や就労準備支援を活用することで、無理のないペースで前に進めます。代表的な支援を以下にまとめました。

制度名	内容	申請先
高等職業訓練促進給付金	資格取得期間中の生活費支援（月10万円前後）	市町村
母子家庭自立支援給付金	資格講座修了時に一時金支給	市町村
就労準備支援事業	職業訓練・面接支援	自治体・ハローワーク
職業訓練校（ポリテクセンター）	無料で専門技能を学べる	ハローワーク経由

資格取得と子育てを両立する現実的な方法

資格取得中は保育費や交通費の補助も受けられる場合があります。福祉事務所や市の子育て支援課に「訓練を受けたいが費用が心配」と相談してみましょう。多くの自治体で、就労準備中の母親に対して保育所利用を優先的に認めています。焦らず1歩ずつ、将来に向けた準備を進めることが何より大切です。

転居や住み替えを考えるときの注意点

転居は自由にできますが、生活保護受給中は必ず「事前承認」が必要です。承認なしに契約すると、住宅扶助が受けられなくなることがあります。手続きの流れを整理すると次の通りです。

「子どもの学校や通院」を理由とした転居は柔軟に認められる

転居理由が「子どもの安全な通学」や「医療機関へのアクセス改善」である場合、福祉事務所は柔軟に認める傾向があります。説明時には「徒歩時間」「電車の本数」「通院頻度」など、具体的な数値を示すと説得力が高まります。必要なら学校や医療機関の証明書を添えるとよいでしょう。

よくある質問（FAQ）

Q1. 家賃が上限を少し超える物件でも借りられますか？

原則は上限内のみですが、子どもの通学や通院など正当な理由がある場合は例外承認されることもあります。契約前に必ず福祉事務所で確認しましょう。

Q2. 家賃の支払い方法は選べますか？

「代理納付」（福祉事務所から直接振込）と「本人支払い」が選べます。滞納を防ぐため、多くの方が代理納付を選んでいます。

Q3. 保証会社の更新料も補助されますか？

自治体によって扱いが異なります。更新料・保証料は対象外の地域もあるため、見積段階で「住宅扶助の範囲」に含まれるか確認してください。

最後に：安心して暮らしを続けるための心構え

生活保護制度は「暮らしの再出発」を支えるための制度です。母子家庭のお母さんが子どもと安心して生活できるように設計されています。制度を使うことは恥ずかしいことではありません。むしろ、きちんと支援を受けて暮らしを安定させることが、子どもの未来につながります。困ったら一人で抱えず、福祉事務所・社協・居住支援法人などへ早めに相談してください。

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監修・出典・更新情報

監修：社会福祉士／居住支援専門員　山本 亜紀（公益社団法人 福祉サポートセンター）
協力：東京都福祉保健局・UR都市機構・全国社会福祉協議会
出典：
・厚生労働省「生活保護制度の概要」
・厚生労働省「住居確保給付金」制度概要
・UR都市機構「子育て世帯・母子家庭向け支援」
・法テラス公式サイト
・全国社会福祉協議会「生活福祉資金貸付制度」
最終更新日：2025年10月5日

この記事は公的情報源に基づき執筆され、実際の生活保護受給者・母子家庭の現場支援経験を持つ専門家によって監修されています。地域ごとの運用差異があるため、必ず最新の自治体情報をご確認ください。