児童扶養手当というのは、経済的に困窮するひとり親世帯を支援するための制度で、母子家庭でもよく利用されている支援策のひとつです。
児童扶養手当を受けるには決められた条件がありますが、ひとり親世帯の支援が目的のため、支給の対象はひとり親世帯とそれに準ずる世帯です。
母子家庭の多くは子供との単一世帯と思いますが、自身の仕事の都合や親の介護が必要になったなど、親と同居を考えることもあるでしょう。そんなとき、心配になるのは児童扶養手当です。
ひとり親になったときは子供と暮らしていたので手当はもらえていたけど、親と同居することになったらひとり親世帯ではなくなるのでもらえなくなる、と思いますよね。
また、介護費用の負担を軽減する方法としてよく利用されるのが世帯分離ですが、世帯分離をすれば親と同居はしても自分はひとり親世帯のままです。この場合の児童扶養手当はどうなるのでしょうか?
そこでここでは、親と同居したり、同居はするものの世帯分離をした場合、児童扶養手当はもらえるのかどうか、解説していきます。
児童扶養手当がもらえるのはどんな世帯?
親と同居したり同居しても世帯分離をしたら児童扶養手当はどうなるか見ていく前に、支給の対象をもう一度確認しましょう。
支給対象者
支給の対象は、厚生労働省のホームページでは、次のように定義されています。
18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童(障害児の場合は20歳未満)を監護する母、監護し、かつ生計を同じくする父または養育する者(祖父母等)
支給要件
また支給の要件は
父母が婚姻を解消した児童、父又は母が死亡した児童、父又は母が一定程度の障害の状態にある児童、父又は母の生死が明らかでない児童などを監護等していること
となっています。
支給対象者、支給要件とも、子供とその親、養育者のことを規定していて、ひとり親の親のことまでは言及がありません。
ということは、児童扶養手当というのは、あくまでも子供とその親、養育者との関係等で支給されるかされないかが決まるということで、その親との同居や世帯分離という形態とは関係がない、ということになります。
では、親と同居してもそのまま児童扶養手当がもらえるか、というと、必ずしもそうはなりません。
その理由は、児童扶養手当を受けるための条件に、「所得制限」があるからです。
児童扶養手当の所得制限とは
児童扶養手当はひとり親世帯なら誰でも受けられる制度というわけではありません。
経済的な支援が目的ですから、ひとり親世帯でも所得が十分にある世帯は支援の必要はないと判断されます。その判断となるのが「所得制限」です。
ここで所得は養育者の所得のことを言い、母子家庭の場合は母親の収入が所得ということになります。
ここで、もし母親の親に収入があり、母親より親の方が多い場合、親と同居をすると所得制限にひっかかってくるのは母親の親の収入の方になります。
扶養人数 | 申請者所得 (全額受給) | 申請者所得 (一部受給) | 配偶者・扶養義務者・孤児等 の養育者の所得 |
0人 | 490,000円未満 | 1,920,000円未満 | 2,360,000円未満 |
1人 | 870,000円未満 | 2,300,000円未満 | 2,740,000円未満 |
2人 | 1,250,000円未満 | 2,680,000円未満 | 3,120,000円未満 |
3人 | 1,630,000円未満 | 3,060,000円未満 | 3,500,000円未満 |
4人 | 2,010,000円未満 | 3,440,000円未満 | 3,880,000円未満 |
5人 以上 | 1人増えるごとに 380,000円加算 | 1人増えるごとに 380,000円加算 | 1人増えるごとに 380,000円加算 |
上表では、子供が一人の母子家庭の場合、母親の所得が230万円以下であれば児童扶養手当を受けることはできますが、親と同居し、親の所得が274万円を超えると児童扶養手当は受けられなくなります。
母親の親の所得を例にあげましたが、実際には、父母・祖父母・曽祖父母・子ども・孫・ひ孫のことで、申請者と生計を共に維持する直系の血族と兄弟姉妹の所得を見なくてはいけません。同居している家族の所得が定められている所得制限額を超えると、満額または一部を受け取れなくなるからです。
実家暮らしで、本人・子ども・父母・兄で生活していて、父親の所得が一番高くて制限額以上だと児童扶養手当は受け取れません。
母子家庭の母親の親だけでなく、祖父母と兄弟姉妹を含め、一番所得が高い人の金額で判断されます。世帯の所得の合算ではないのが救いですが、それでも児童扶養手当がもらえなくなる可能性はかなり高くなるでしょう。
また、見逃しがちなのが養育費です。離婚して元夫から養育費をもらっている場合、親と同居していて所得が制限額以下でも養育費を受け取っていると、8割相当は収入に加算されるため、それも踏まえないといけません。
世帯分離をすれば親と同居でも児童扶養手当はもらえる?
世帯分離とは、1つの家に同居しながら住民票の世帯を2つに分けることで、主に介護負担や所得が少ない親の住民税を軽減することが目的です。
この世帯分離をすれば、同居している親や兄弟の所得は関係なくなる、と考えるかもしれません。所得制限の対象になる扶養義務者から、親兄弟ははずれるからです。
でも実際にはそう簡単ではありません。住民票の世帯は2つに分かれていたとしても、同居しているかについては客観的に判断されるためです。
このあたりの判断は各自治体が行っており、住民票で世帯分離をしていても児童扶養手当では同居となるとしているところもあり、どう判断するかは自治体ごとに違います。同居と判断されれば、自治体によっては支給されないケースもあります。
母子家庭で親と同居していても児童扶養手当を受け取れるのは、自治体が世帯が分かれていると判断した時で、世帯分離をしていても同居していたら、基本的には同居と判断されます。
親と同居していると、家賃などは不要でサポートを受けていると考えられるからです。
世帯分離で児童扶養手当がもらえるケース
二世帯住宅にする
世帯分離をしても基本的には同居と見なされますが、世帯が分かれていると判断されるケ-スもあります。それは、玄関や風呂が2つあって電気・水道・ガスなどの光熱費は別に支払っている場合です。
つまり、完全な二世帯住宅に住んでいるケースです。
現時点、このような二世帯住宅で暮らしているときは、児童扶養手当の対象となる可能性があります。
ただし、客観的に違う世帯でも最終的に支給対象になるかの判断は、自治体が決めることです。
両親を扶養家族にする
その他には、両親を扶養に入れることで児童扶養手当をもらえる場合もあります。
例えば、自分・子ども・父母・兄の世帯なら、両親も扶養に入れると子供と合わせて3人になり自分の所得が163万円未満で、兄の所得も350万円未満なら受給が可能になります。
扶養親族の人数が増えるほど所得制限額が上がるので、両親を扶養に入れるのも一つの方法ですが、条件があります。
- 納税者である子どもと生計を一にしていること
- 年間の合計所得が48万円以下、所得が給与のみ時は給与収入が103万円以下、青色申告者の専業従事者としてその年間は1度も給与を受けとっていない
- 白色申告者の専業従事者でないこと
です。
児童扶養手当でもらえる金額は少なくないですよね。親と同居することになったとしても簡単にはあきらめず、色々と工夫してみましょう。