母子家庭で生活保護を受けると子供の教育費、養育費が支給されますが、教育費の支給は義務教育の期間に限定され、また養育費の支給は18歳までとなっており、子供がそれ以上の年齢になると子供に関する扶助は、基本的に支給されなくなっていました。
これは、母子家庭で生活保護を受けている場合、子供は高校を卒業したら進学はせず、生活保護からの自立のため、社会に出て働くことを前提としていたからです。言い換えると、生活保護を受けている間は、子供は大学に進学することはできない、ということです。
この制約により、生活保護受給者を含む低所得世帯の子供の大学進学は難しく、その結果、就職しても収入が少なく、生活保護から抜け出せないことが問題になっていました。
そこで、2018年と2020年に経済的に苦しい家庭を支援するための新しい制度が制定されました。この制度のおかげで、生活保護を受けている母子家庭でも、子供は大学に進学しやすくなっています。
ここでは、生活保護を受けている母子家庭で子供が大学に進学する方法について、順番にみていきます。
子供を世帯分離する
子供を世帯分離して母親とは別世帯にする
先に、「生活保護を受けている間は、子供は大学に進学することはできない」と述べましたが、逆に言えば、生活保護をやめれば大学に進学できる、ということになります。
しかし、母子家庭で生活が苦しくて生活保護を受けているのに、子供の大学進学のために生活保護をやめるのは現実的ではなく、ケースワーカー、福祉事務所の了解ももらうことができません。
そこで利用を考えたいのが、「世帯分離」です。
世帯分離というのは、一緒に住んでいる家族の世帯を分けることで、一緒に住みながらも別世帯とすることができます。主に介護費用を抑えるために利用されている制度ですが、生活保護を受けている母子家庭の子供の大学進学にも利用することができます。
生活保護は世帯の単位で支給の対象になっているので、母子家庭で子供を世帯分離することによって、子供を生活保護の世帯から切り離します。こうすれば、大学進学に生活保護の制約はなくなります。
また、世帯分離をしても住居まで分ける必要はなく、分離前と変わらず母子で暮らすことができます。
世帯分離のメリット
進学準備給付金の支給が受けられる
以前は、子供が世帯分離して生活保護の世帯から離れると、大学や短大、専門学校への進学に必要な費用はすべて自己負担で、これは生活保護を受けている母子家庭にとって、子供の大学進学を妨げる大きな障害になっていました。
そこで2018年の法改正により、「新生活の立ち上げ費用」という名目で、下記の給付金が受けられるようになりました。
自宅で親と同居する場合:10万円
親元を離れる場合:30万円
住宅扶助費の減額は廃止
これまでは、世帯分離をすると生活保護を受けている世帯の人数が減るため、それに伴って家賃などをまかなってくれる住宅扶助は、減った世帯員数に沿った額に減額されていましたが、こちらも2018年の法改正によって、世帯分離しても住宅扶助費が減額されることはなくなりました。
進学準備給付金の支給、住宅扶助費の減額廃止とも、生活保護を受けている家庭の子供の大学進学が目的の支援です。
世帯分離のデメリット
生活扶助が減額される
生活扶助は世帯員数で支給額が決まるため、世帯分離で世帯員数が減ることで生活費が減額されます。
しかし、母子家庭などで世帯分離しても子供が同居を続ける場合は、生活費そのものが少なくなるわけではないので、生活は苦しくなります。そのため、子供がアルバイトなどして自分の生活費をまかなう程度の収入を得る必要があります。
国民健康保険の保険料、医療費が自己負担になる
20歳になると国民健康保険への加入が義務付けられているため、生活保護では免除されていた保険料の支払いが必要になります。
ただし、学生で本人の収入が下記の式であらわされる収入以下であれば、在学中の保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」を利用することができます。
128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等
学生の多くは扶養親族はなく、保険料控除がないと考えられるので、128万円以下の収入であれば、保険料の支払いは免除されることになります。また対象になる学校は、大学、大学院、短期大学のほか高等学校など、日本にあるほとんどの高等学校となっています。
子供の生活費が自己負担になる
生活保護で受けていた生活扶助の対象からはずれるので、生活費は自分負担になります。原則、生活保護を受けている世帯から援助を受けることはできません。
学費を用意する必要がある
これは直接世帯分離とは関係ありませんが、大学、短大、専門学校に通うための学費を自分で用意しなくてはなりません。そのためには、アルバイトなどをして収入を確保する必要があります。
高等教育の就学支援新制度を利用する
高等教育の就学支援新制度とは
意欲のある子供達の大学等への進学を支援する目的で、大学、短期大学等の無償化のために2020年に制定された制度です。
対象になる学校
大学、短期大学、高等専門学校、専門学校
対象になる学生
住民税非課税世帯(生活保護を受給している世帯はここに含まれます)の学生、およびそれに準ずる世帯の学生で、本人の学習意欲が高いことが条件です。
そのため、事前にレポートなどで学生の学習意欲を確認することになっているほか、進学後も学習状況が確認され、もし、授業に出席していないなど、学習状況に問題ありと判断された場合、理由によっては制度の適用が停止されることがあります。
高等教育の就学支援 新制度の内容
授業料等減免制度の創設
各学校が、下表の上限額まで授業料等を減免します。
授業料等減免の上限(年額)
国公立 | ← | 私立 | ← | |
入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 | |
大学 | 約28万円 | 約54万円 | 約26万円 | 約70万円 |
短期大学 | 約17万円 | 約39万円 | 約25万円 | 約62万円 |
高等専門学校 | 約8万円 | 約23万円 | 約13万円 | 約70万円 |
専門学校 | 約7万円 | 約17万円 | 約16万円 | 約59万円 |
返還が不要の給付型奨学金の支給の拡充
日本学生支援機構から下表の金額が支給されます。
給付型奨学金の給付額(年額)
学校 | 給付額 |
国公立 大学、短期大学、専門学校 | 自宅生 約35万円、自宅外性 約80万円 |
国公立 高等専門学校 | 自宅生 約21万円、自宅外性 約41万円 |
私立 大学、短期大学、専門学校 | 自宅生 約46万円、自宅外性 約91万円 |
私立 高等専門学校 | 自宅生 約32万円、自宅外性 約52万円 |
どちらも上限額が決まっていることから、この上限を超える場合は自己負担になります。